大人と学生が共につなぐ居場所


かのん(奏音)について

佐世保市中心部のビル4階にある「かのん」は、学生なら誰でも無料で過ごせる居場所です。 ここでは特別に何かをする必要はなく、自分のペースで過ごせる「ただ居てもいい場所」。ピアノを弾いたり、本を読んだり、ぼーっとしたりと、それぞれが自由に過ごしています。

もちろん、静かな環境で勉強や読書に取り組んだり、グループ活動に使ったりすることもできます。 主な対象は中高生・大学生・専門学校生。事前の登録や予約は不要で、開所日にふらりと立ち寄ることができます。

成果を求めない「ただそこにいていい」場所

2019年12月にこの場所を開設し、運営するのは心療内科医の野口栄二さんです。
野口さん「当時、佐世保市内には中高生が自由に過ごせる居場所がありませんでした。日々の診療の中でその必要性を強く感じ、まずは自分ができることを形にしようと開設を決めました。

提供したかったのは、成果や成績を求められない場所。学校や家庭のプレッシャーから離れて、何もしなくても、ただここにいていいんだ、と感じられる居場所です。
そのため、使い方は利用する子どもたちにゆだねています。大人は口出しをせず、危険がないことだけを確認しながら、静かに見守る姿勢を大切にしています」

利用者の声

ここの利用者であり、学生ボランティアとしても活動する、高校2年生の折原奏翔(かなと)さんにお話を聞きました。

折原さん「僕が初めて利用したのは中学2年の頃です。学校や家以外で過ごすのは初めてだったけれど、すごく落ち着く場所だなと思いました。グランドピアノを自由に弾かせてもらえると知って通うようになり、受験前は自習室として使っていました。
今では学生ボランティアとして開所を手伝ったり、高校生同士でイベントを企画するなど、これまでには経験できなかった活動ができています」

閉鎖の危機を乗り越えて

現在では開所日になると多くの学生で賑わう「かのん」ですが、実は一度、閉所を決断した過去があります。

野口さん「子どもたちにとって、無料で使える場所であることを大切にしています。自身の持ち出しに加え、活動に共感してくださる大人の方々からの寄付や支援で運営していましたが、運営費の負担は大きく、限界を迎えてしまったんです。苦渋の決断として、2024年3月に閉所を発表しました」

しかし、その知らせがSNSや地元の新聞で広がると、状況が変わり始めました。
「『大切な場所がなくなるのはさみしい』『何か手伝えることはないですか』といった声や支援が集まり、事情を知った大家さんもテナント料の引き下げを申し出てくださったんです。これならもう少し続けられるかもしれないと思い直し、再スタートを切りました」

ちょうどその頃、佐世保市役所の最上階(13階)に「市民向けラウンジ」が開設されたことも大きな後押しとなりました。平日に子どもたちが利用できる公共の居場所ができたことで、「かのん」は土日を中心に、気負わず開所する方針へシフトできたのです。

学生ボランティアの活躍

このタイミングで学生ボランティアになったのが、折原さんです。
折原さん「閉鎖の危機を知って、再開後も開所日が減っているのをさみしく感じていました。学生の自分でも、利用者の目線で何か手伝えることがあるのかもしれないと思って、ボランティアに手を挙げたんです」

折原さんの加入により、野口さん不在時の開所が可能になったほか、学生目線のSNS発信で、居場所を必要とする子どもたちへ情報が届くようになりました。
さらに、折原さんは今年5月、居場所のあり方を考える学生向けイベントを企画。定員20名が満席となる盛況ぶりで、これを機に高校生ボランティアが加わり、現在3名が運営に関わっています。

5月の学生主催イベントの様子。

また9月には、運営費を賄うためにやむなく売却となったグランドピアノへの感謝を込めて、学生主催のコンサートを企画・開催するなど、学生たちが主体となって、この場所へ新たな風を吹き込んでいます。

9月に開催された学生主催のコンサートは大成功をおさめた。

この変化に野口さんは「当初は想像もしていなかった、うれしい未来です。ここまでやってきてよかったと思います」と笑みをこぼします。

続けるための工夫と、未来へのバトン

「かのん」では、学生無料の居場所であり続けるために、さまざまな支援の形が整えられています。認知を広げるための音楽イベント、寄付の呼びかけなど、地域の大人たちが無理なく関われる多様な仕組みが準備されています。

夜に開催されたピアノコンサートの会場

それでも支援者に向けて必要性を訴えかけ、支援を集め続け、個人で運営を維持することは簡単ではありません。

野口さん「この居場所がこれからも子どもたちのために存在し続けることが、一番だと思っています。だからこそ、私自身が運営を続けることにはこだわっていません。思いを継承してくれる事業者や団体へ『事業譲渡』という形でバトンを渡し、『かのん』がさらにみんなにとって心地よい居場所として続けられることを願っています」
野口さんは現在、この居場所の存続に向けて、運営を託せる引き継ぎ先を真剣に探しています。

利用したいみなさんへ

折原さん「開所日はInstagramでお知らせしています。ビル入り口の立て看板も、開所日の目印です。
勉強や読書はもちろん、ぼーっと過ごしたり、静かにおしゃべりしたり。家でも学校でもないもう一つの居場所として、安心して立ち寄ってみてください。ボランティアに興味がある学生も募集しています」

現在3名の高校生が開所ボランティアとして活躍中

こんな支援を求めています

「かのん」がこれからも学生無料の場所として守っていくために、力を貸してくれる人を探しています。

  • 引き継ぎ先の募集
    学生無料という理念を守り、この場所を未来へつないでくれる事業者や団体を求めています。(事業譲渡)
  • 寄付やイベントによる応援
    音楽コンサートを楽しむ、一箱本棚をレンタルする、有料のレンタルスペースを利用する、寄付、クラウドファンディングなど、自分に合う形で支援ができます。

これから「こども場所」をつくりたい方へ

最後に、これから同じような場所を作りたいと考えている人へ、野口さんにアドバイスをお聞きしました。

野口さん「ゼロから場所を借りて始めるのは大きなコストがかかり、私自身も資金面で苦しい思いをしました。最初は既存の店舗や空きスペースを活用するなど、小規模な形から始めることをおすすめします。
ひとつの大きな拠点を作るよりも、子どもたちが通える『小さな居場所』がまちのあちこちに増えていくのもいいと思います。
主催者が1人で抱え込みすぎず、少しの余白を持ちながら続けていくことが、持続可能な居場所づくりには大切だと感じています」

閉鎖の危機を乗り越え、学生ボランティアとともに変化してきた「かのん」。その歩みは、居場所を続けることの意義や、支援のあり方を考える上で、多くのヒントを与えてくれます。

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